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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)3165号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人門宏明に対し、

控訴人正木啓之、同松浦優は、それぞれ金二三万五七一三円、控訴人藤本誠、同島田良美は、それぞれ金七万八五七一円、控訴人飯田義輝は、金一五万七一四二円及び右各金員に対する控訴人正木啓之、同松浦優、同藤本誠、同島田良美については平成四年六月一七日から、控訴人飯田義輝については同月一八日から平成五年七月二〇日まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人酒井研二に対し、

控訴人正木啓之、同松浦優は、それぞれ金一二万八五七一円、控訴人藤本誠、同島田良美は、それぞれ金四万二八五七円、控訴人飯田義輝は、金八万五七一四円及び右各金員に対する控訴人正木啓之、同松浦優、同藤本誠、同島田良美については平成四年六月一七日から、控訴人飯田義輝については同月一八日から平成五年七月二〇日まで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らの控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

三  この判決は被控訴人ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  平成五年(ネ)第三一六五事件の控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  平成五年(ネ)第三一八〇事件の控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

三  控訴の趣旨に対する答弁(両事件)

1  本件各控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  組合契約の出資金相当の持分払戻請求

(一) 被控訴人両名と控訴人ら五名の計七名は、平成二年一一月頃、一口一〇〇万円とする出資をし、その出資金でヨットを共同で購入し、各出資者がオーナー会員となって当該ヨットを利用して航海等を楽しみ、ヨットライフを享受することを目的とするヨットクラブを結成する契約(以下「本件契約」といい、このヨットクラブを「本件クラブ」という。)を締結した。

(二) 被控訴人両名と控訴人ら五名の計七名は、その頃、本件契約に基づき、次のとおり合計一四〇〇万円の出資をしてオーナー会員となり、平成三年一月三〇日、ベネトー社製の四〇フィートの中古ヨット「アプラ号」(以下「本件ヨット」という。)を一四〇〇万円で共同購入し、これを利用してきた。

〈1〉被控訴人門宏明二口二〇〇万円、〈2〉被控訴人酒井研二二口二〇〇万円、〈3〉控訴人正木啓之三口三〇〇万円、〈4〉控訴人飯田義輝二口二〇〇万円、〈5〉控訴人藤本誠一口一〇〇万円、〈6〉控訴人島田良美一口一〇〇万円、〈7〉控訴人松浦優三口三〇〇万円

(三) 本件契約は民法六六七条の組合契約であり(本件クラブは法的に評価すると民法上の組合ということになる。)、仮にそうでないとしても、本件クラブに関する権利関係については、民法上の組合契約の規定が類推適用されるべきである。

(四)〈1〉本件契約は存続期間を定めないものであるところ、被控訴人らは、平成三年八月、控訴人らに対し、本件組合(本件クラブ)から脱退する旨の意思表示をした(民法六七八条一項本文)。

〈2〉なお、その後、被控訴人らは、控訴人らから、平成三年一一月末日まで出資金の清算を待ってほしいとの申し出を受け、右期日まで待つこととした。

〈3〉仮に右の意思表示の効力が認められないとしても、被控訴人らは、本件訴状の送達をもって、控訴人らに対し、本件組合(本件クラブ)から脱退する旨の意思表示をした(民法六七八条一項本文)。

(五) 仮に本件契約が存続期間の定めのあるものとしても、被控訴人らのなした脱退の申し出には、已むことを得ざる事由がある(民法六七八条二項)。すなわち、本件クラブは、七名という少人数で、会員の個人的色彩の濃厚な集合体であるところ、控訴人らは、被控訴人らに対し、ヨットの係留権取得費用や桟橋の工事費を立替払いさせ、しかも、右工事費用に対して苦情を言ったり、早急に支払われてしかるべき右立替金を支払わないこと等により、信頼関係を前提とする組合において、互いに不信感を醸出させ、その結果、今後ともヨットの維持管理費等をめぐって同様のトラブルが繰り返し発生することが当然予想されたので、被控訴人らと控訴人ら間の信頼関係はもはや維持し難く、共同してヨットライフを送ることができなくなったのである。

(六) 右脱退当時、組合財産である本件ヨットの価額は一四〇〇万円相当である(民法六八一条一項)。

2  ヨットの係留権取得費用の立替金の返還

(一) ヨットを所有するには、ヨットの係留場所の確保が必要であったので、本件ヨットの係留権を取得するため、係留権付の中古ヨット「アスカ号」を二五〇万円で購入することになり、平成三年一月末頃、その取得代金として、被控訴人門宏明及び同酒井研二が各一〇〇万円、控訴人正木啓之が五〇万円を立替えて支払い、西宮の一文字ヨットクラブに係留権を確保した。

(二) その後、右中古ヨット「アスカ号」が一三〇万円で売却され、その売却代金から、控訴人正木啓之に五〇万円、被控訴人門宏明及び同酒井研二に各四〇万円が支払われたが、被控訴人門宏明及び同酒井研二の立替金各六〇万円は未払いのままである。

3  桟橋工事費の立替金の返還

(一) ヨットを係留するに当たり、桟橋の取替工事が必要となり、平成三年五月頃、被控訴人門宏明が右工事業者に工事代金五〇万円を立て替えて支払った。

(二) しかるに、右立替金は未払いのままである。

4  よって、組合債務は合有債務であるから、被控訴人門宏明は、控訴人らに対し、出資金相当の持分払戻金二〇〇万円、係留権取得費用の立替金六〇万円、桟橋工事費の立替金五〇万円の合計三一〇万円及びこれに対する最終の訴状送達の日の翌日である平成四年六月一七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求め、被控訴人酒井研二は、控訴人らに対し、出資金相当の持分払戻金二〇〇万円、係留権取得費用の立替金六〇万円の合計二六〇万円及びこれに対する最終の訴状送達の日の翌日である平成四年六月一七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実のうち、控訴人正木啓之が本件契約の当事者であるとの点を除いて、その余の事実を認める。本件契約の当事者は、控訴人正木啓之ではなく、同人が経営する正木刃物株式会社である。

2  請求原因1(二)の事実のうち、控訴人正木啓之が本件クラブの会員で、出資者であるとの点を除いて、その余の事実を認める。本件クラブの会員・出資者は、控訴人正木啓之ではなく、同人が経営する正木刃物株式会社(法人会員)である。

3  請求原因1(三)の主張は争う。本件クラブは、ヨットライフを楽しむためのもので、「共同の事業を営む」ものではなく、単なるヨットの共同所有関係又はヨットの共同購入による共有物の使用・管理の会ともいえるものであって、本件契約は民法上の組合契約には当たらないから、民法の組合の規定の適用はない。

4  請求原因1(四)〈1〉の事実は否認し、その主張は争う。本件契約は、規約第六項の3により、存続期間を本件ヨットを将来売却する迄と定められているから、民法六七八条一項本文による脱退は認められないし、被控訴人らの退会の申し出の理由は、同項但書の已むことを得ざる事由に該当しない。また、被控訴人らが退会の申入れをしたのは平成三年一二月四日付書面によってである。

5  請求原因1(五)の事実は否認し、その主張は争う。

6  請求原因1(六)の事実は否認する。本件ヨットの価格はせいぜい一八〇万円程度である。

7  請求原因2(一)(二)の事実は認める。

8  請求原因3(一)(二)の事実は認める。

9  請求原因4の主張は争う。本件出資金相当の持分払戻金支払債務、係留権取得費用の立替金支払債務、桟橋工事費の立替金支払債務は、いずれも連帯債務とはならない。

三  抗弁

1  請求原因1(出資金相当の持分払戻請求)について

(一) 仮に本件クラブに民法の組合の規定の適用があるとしても、本件クラブを退会するには、会員は、規約(乙第一号証)上、オーナー会議で承認される相手方に会員の権利を譲渡することが必要であり、退会については右の方法に制約されている。すなわち、被控訴人両名と控訴人ら五名との間には、本件クラブの規約により、右七名のオーナー会議において承認された相手方に対して自己の有する権利を譲渡することによってのみ退会することができ、それ以外に任意退会することは認められていないのである(規約第一二項)。

(二) 本件契約に存続期間の定めがないとしても、本件クラブは、資金的余裕がないために単独でヨットを購入できない者が、共同で出資してヨットを購入し、ヨットライフを享受することを目的として結成されたものであるから、結成して間もない時期に、一部の者が突然退会を申し出て「自分の出した金額を返せ。」と言い出すことなど、本件クラブの性質から予想していないことであり、また、他の会員が出資金を分担して返還しなければならないとすると、その支払いは他の会員に予想外の不当な出費を強いることになって、本件クラブ結成の精神に反するばかりでなく、場合によってはヨットを処分しなければならないという事態にまで発展しかねないから、被控訴人らのなした退会の申し出は、控訴人らないし本件クラブのため不利な時期になされたものであって、民法六七八条一項但書により許されない。

(三) 仮に任意の退会が認められ、持分の清算が認められるとしても、清算は、被控訴人らにおいて、会員の権利の譲渡ができなかった場合に、本件クラブの活動が終了し、本件ヨットを売却処分したとき(規約第六項の3)、もしくは本件ヨットの評価が話合いや客観的査定等の方法により合意に達したときを基準として行なわれるべきであって、脱退時を基準として行なわれるものではない。

(四)(控訴人飯田義輝のみ)

控訴人飯田義輝は、平成五年六月三〇日、本件組合を脱退したから、被控訴人らは、既に組合員でなくなっている控訴人飯田義輝に対して、組合に対する債権である持分払戻請求権につき、これを請求することはできない。

2  請求原因2、3(係留権取得費用の立替金及び桟橋工事費の立替金の返還)について

(一) 被控訴人らが控訴人らに請求できた金員は、係留権取得費用の立替金としては、合計一二〇万円に対する控訴人らの負担割合の合計である一四分の一〇にあたる八五万七一四三円(円未満切り上げ)、桟橋工事費としては、五〇万円に対する控訴人らの負担割合の合計である一四分の一〇にあたる三五万七一四三円(円未満切り上げ)、合計一二一万四二八六円である。

(二) 控訴人らは、平成四年一月一〇日、被控訴人らに対し、右金員の支払いにつき、履行の提供をした。

(三) 控訴人らは、平成五年七月二〇日の原審第一一回口頭弁論兼和解期日において、被控訴人らに対し、右金員の支払いにつき、履行の提供をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実は否認し、その主張は争う。本件クラブの規約については、被控訴人らは承諾しておらず、したがって、規約として成立していないから、被控訴人らを拘束する効力はない。乙第一号証(規約書)は試案にすぎない。仮に右規約が有効に成立しているとしても、規約第一二項は、せいぜい会員の権利譲渡に伴なう退会と新規加入を規制しているにすぎず、退会の申出一般について、これを制約する規定ではない。

2  抗弁1(二)の事実は否認し、その主張は争う。

3  抗弁1(三)の事実は否認し、その主張は争う。会員の退会があれば直ちに清算が行なわれる必要がある。

4  抗弁1(四)の事実は否認し、その主張は争う。被控訴人らの本件組合脱退後に控訴人飯田義輝が右組合を脱退したとしても、被控訴人らの脱退した時点で既に確定した双方の債権債務関係に影響を及ぼすものではない。

5  抗弁2(一)(二)の主張は争う。

五  再抗弁

1  抗弁1(一)に対し

本件クラブの規約が、被控訴人らにも適用があり、しかも、控訴人ら主張のとおり、会員の退会につき、会員の権利の譲渡による方法だけに限られており、それ以外の方法は許されない趣旨のものとすれば、被控訴人ら会員に対して余りにも重い拘束を与えるものであって、公序良俗に反する無効の規定といわざるをえない。

2  抗弁1(二)に対し

仮に本件任意脱退の申し出が組合にとって不利な時期であったとしても、本件クラブは、七名という少人数で、会員の個人的色彩の濃厚な集合体であるところ、控訴人らは、被控訴人らに対し、ヨットの係留権取得費用や桟橋の工事費を立替払いさせ、しかも、右工事費用に対して苦情を言ったり、早急に支払われてしかるべき右立替金を全く支払わないこと等により、信頼関係を前提とする組合において、互いに不信感を醸出させ、その結果、今後ともヨットの維持管理費等をめぐって同様のトラブルが繰り返し発生することが当然予想されたので、被控訴人らと控訴人ら間の信頼関係はもはや維持し難く、共同してヨットライフを送ることができなくなったのであるから、被控訴人らのなした本件脱退の申し出には、已むことを得ざる事由がある(民法六七八条一項但書)。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の主張は争う。

2  再抗弁2の事実は否認し、その主張は争う。被控訴人らの退会申し出の理由は恣意的であり、已むことを得ざる事由に該当しない。

第三  証拠(省略)

理由

一  出資金相当の持分払戻請求について

1  請求原因1(一)(二)の事実のうち、控訴人正木啓之が本件契約の当事者である点、同人が本件クラブの会員で、出資者であるとの点を除いて、その余の事実は当事者間に争いがない。

2  乙第一四、第一六、第一七号証、第二六号証の1ないし4、控訴人正木啓之の本人尋問の結果(一部)によれば、本件クラブの三口分の出資金三〇〇万円は、控訴人正木啓之が代表取締役をしている正木刃物株式会社名義で支払われており、本件クラブの月額二万円の会費も同社名義で控訴人松浦優宛に振込送金されていたこと、正木刃物株式会社では、本件ヨットの持分権を資産として計上し、毎年その減価償却を行なう経理処理がなされていることが認められる。しかしながら、甲第一号証、乙第二、第九号証によれば、本件ヨットは、平成三年三月二九日、控訴人・被控訴人ら合計七名を代表して控訴人正木啓之の名義に所有者が変更されていること、オーナーリストには、オーナーの氏名欄に正木刃物株式会社ではなく、「正木啓之」の氏名があり、その肩書き欄に正木刃物社長と記載され、住所欄の冒頭には「法人」と記載されているが、その住所は控訴人正木啓之の住所であって、これが正木刃物株式会社の本店とされていることが認められ、この事実に、〈1〉控訴人正木啓之は、原審第一回口頭弁論期日において陳述された控訴人らの平成四年六月一七日付答弁書において、控訴人正木啓之らが平成二年一一月頃本件契約を締結したことを認める旨の答弁をするとともに、「出資口数は控訴人正木啓之が三口である。」旨を主張し、一旦自白が成立したこと、〈2〉ヨットの係留権取得費用の五〇万円を立替えて支払ったのは、正木刃物株式会社ではなく、控訴人正木啓之個人であること(控訴人正木啓之の本人尋問の結果)、〈3〉本件クラブでは、個人会員と法人会員とでは取扱いに全く差がないこと(控訴人松浦優の本人尋問の結果)、〈4〉正木刃物株式会社は、資本金二四〇万円の同族会社であり、控訴人正木啓之は、本件クラブの入会に際し、他の六名(個人会員)と異なり、控訴人正木啓之個人とは明確に区別して、正木刃物株式会社が法人会員となる旨を他の会員全員に表明していないこと(弁論の全趣旨)等の事情をも合わせ考慮すると、控訴人正木啓之は、本件契約を締結するに当たり、控訴人正木啓之個人と正木刃物株式会社とを厳密に区別して、同会社代表取締役として、行動したものではなく、本件契約の当事者は、控訴人正木啓之であると認めるのが相当である。控訴人正木啓之本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用することができない。

3  右1、2判示の事実によると、本件クラブは「共同の事業を営む」ものであり、民法上の組合と認められるから、本件契約は民法の組合契約ということになる。

4  乙第一号証、第一〇号証の1、2、控訴人松浦優の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人松浦優は、本件クラブの結成に際し、他のヨットクラブの規約書を参考にして、規約書(乙第一号証)を作成し、平成二年一一月二一日頃の会合において、出席していた控訴人・被控訴人ら全員にこれを配布し、「これで行く。」旨を表明し、席上、被控訴人らを含む他の会員から特に異議が出なかったので、右規約については賛同されたものとし、以後、これに基づき、月額二万円の会費を徴収したが、被控訴人らもこれに従って納付していたことが認められる。

右の事実によると、本件クラブの規約は、控訴人・被控訴人ら七名の組合員全員の間で有効に成立しており、組合契約の内容として、被控訴人らを含む組合員全員を拘束する効力を有するというべきである。

5  そして、乙第一号証によれば、本件契約には存続期間の定めがないことが認められる。

控訴人らは、規約第六項の3により、本件契約の存続期間は本件ヨットを将来売却する迄と定められていると主張するが、乙第一号証によれば、規約第六項に会員の「権利」と題して、その3に「将来、艇(本件ヨット)を売却・買替等するとき、売価の一四分の一を、一口分の取り分とする。」と記載されているだけであるから、この規定を、本件契約の存続期間の定めと読みとることはできない。

6  乙第一号証によれば、本件クラブは、ヨットを、共同購入し、永い将来健全に維持し、ヨットライフを楽しむことが定められており(規約書の前文)、権利譲渡・退会として「オーナー会議で、承認された相手方に対して譲渡することができる。譲渡した月の月末をもって退会とする。(これは、不良なオーナーをふせぐ為である。)」旨が定められている(同一二項)のみで、この規約書に規定されていない事項等が生じた場合は、必要に応じてオーナー会議で決定する事とされていた(同一五項)ことが認められる。

ところで、前記1、2の判示の事実に、控訴人松浦優、同飯田義輝の各本人尋問の結果を総合すれば、本件クラブは、控訴人・被控訴人らが単独で本件ヨットを購入するだけの資金的余裕がないところから、七名が出資して結成された経緯があること、本件クラブは、資産として本件ヨットを有するだけで、資金的・財政的余裕がないという性質を有していること、本件クラブでは、会員の数が少ないと、月会費や作業の負担が増えるので、会員の人選をするとともに、その数を減らしたくないとして、規約第一二項ができたこと、出資金の清算・返還を伴なう任意退会を認めることは、これを支払うべき組合の財源がなくてできないばかりか、会員数を確保するための右規定の趣旨にも反することが認められる。

以上によると、被控訴人らの任意脱退は、他の会員である控訴人らに予想外の出費を強要するものであり、場合によっては本件ヨットを処分しなければならない事態を招来し、本件クラブを消滅させかねないのであって、実質的には、組合財産である本件ヨットの分割請求という側面を有するところ、組合員は清算前に組合財産の分割を求めることができない(民法六七六条二項)のであるから、右任意脱退を容認することは、本件クラブの設立趣意・目的に明らかに反するとともに、民法の規定にも抵触するおそれもあるといわなければならない。

そうすると、本件契約においては、本件組合(本件クラブ)からの任意脱退は、右規約第一二項により会員の権利を譲渡する方法によってのみ行なうことができることが定められており、これ以外の方法によることは認められていないと解するのが相当である。

7  被控訴人らは、右の解釈をとる場合には、右規約は公序良俗に反すると主張する(再抗弁1)が、本件クラブの規約は、被控訴人らを含む組合員全員が異議なく承諾したものであるから、これに拘束されることは当然であり、しかも、本件組合からの任意脱退を会員の権利譲渡の方法のみに制限していることには前記のとおり合理的な理由が認められるから、被控訴人らが自己の権利を他の者に譲渡することができずに本件組合から脱退することができないからといって、右規約が公序良俗に違反するとはいえない。けだし、一切の脱退が禁止されているわけではなく、また、組合員としては、已むことを得ざる事由があるときには、組合の解散を請求することができ(民法六八三条)、清算人を選任し(同法六八五条)、残余財産を出資の価額に応じて分配してもらう(同法六八八条)という方途が残されているからである。

よって、被控訴人両名の出資金相当の持分払戻請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

二  ヨットの係留権取得費用及び桟橋工事費の各立替金について

1  請求原因2(一)(二)、3(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  右係留権取得費用及び桟橋工事費の各立替金の負担割合は、組合員各自の出資の価額に応じて定められる(民法六七四条一項)。この場合、組合員各自の責任は原則として分割債務になると解すべきであって(したがって、右立替金についても連帯債務になるとの被控訴人らの主張は採用しない。)、本件においては例外的事情は認められない。

そうすると、控訴人ら各自(控訴人正木啓之一四分の三、控訴人藤本誠一四分の一、控訴人島田良美一四分の一、控訴人松浦優一四分の三、控訴人飯田義輝一四分の二)が被控訴人らそれぞれに対して負担すべき金額(円未満切り捨て)は次のとおりとなる。

(一)  被控訴人門宏明の係留権取得費用の立替金六〇万円につき

控訴人正木啓之 一二万八五七一円

控訴人藤本誠 四万二八五七円

控訴人島田良美 四万二八五七円

控訴人松浦優 一二万八五七一円

控訴人飯田義輝 八万五七一四円

(二)  被控訴人門宏明の桟橋工事費の立替金五〇万円につき

控訴人正木啓之 一〇万七一四二円

控訴人藤本誠 三万五七一四円

控訴人島田良美 三万五七一四円

控訴人松浦優 一〇万七一四二円

控訴人飯田義輝 七万一四二八円

(三)  被控訴人酒井研二の係留権取得費用の立替金六〇万円につき

控訴人正木啓之 一二万八五七一円

控訴人藤本誠 四万二八五七円

控訴人島田良美 四万二八五七円

控訴人松浦優 一二万八五七一円

控訴人飯田義輝 八万五七一四円

3  乙第一八号証の1、2及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らの代理人小沢礼次弁護士は、被控訴人らの代理人久岡英樹弁護士に対し、平成四年一月一〇日到達の内容証明郵便で、右立替金のうち控訴人らの負担すべき金額合計一二一万四二八〇円を超える一二一万四二八六円(右立替金合計一七〇万円の一四分の一〇、ただし、円未満切り上げ)を支払う所存であるから、送金先を連絡してほしい旨を通知したが、被控訴人らからの右連絡はなかったことが認められる。しかし、控訴人らの被控訴人らに対する右立替金支払い債務は、持参債務であると解されるが、控訴人らの右通知は、単なる口頭の提供であって、現実の提供には当たらないというべきであり、被控訴人らが予め受領を拒んでいたことを認めるに足る証拠もないから、右通知によって、控訴人らの立替金支払い債務につき弁済の提供の効力を生じたものということはできない。

次に乙第一五号証及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らの代理人小沢礼次弁護士は、平成五年七月二〇日の原審第一一回口頭弁論兼和解期日において、被控訴人らの代理人久岡英樹弁護士に対し、右立替金のうち控訴人らの負担すべき金額として、合計一二一万四二八六円を、同金額を額面金額とし、振出人及び支払人を株式会社さくら銀行九条支店とする小切手を持参して、提供したが、被控訴人らの代理人は、この受領を留保すると述べてこれを受け取らなかったことが認められる。右事実によると、控訴人らの右小切手による提供は、右立替金支払い債務につき、債務の本旨にしたがってなされた履行の提供と認めることができる。なお、右金額には、被控訴人らの請求する平成四年六月一七日以降の遅延損害金が含まれていないが、右遅延損害金の額は元本額に比して僅かなものであるから、提供金額に僅かの不足があっても、信義則上、右提供を有効とする妨げとはならないというべきである。

そうすると、控訴人らは、立替金支払い債務につき、右履行の提供後の遅延損害金債務を負わないといわなければならない。

三  以上によれば、被控訴人門宏明の請求は、控訴人正木啓之、同松浦優に対し、それぞれ二三万五七一三円、控訴人藤本誠、同島田良美に対し、それぞれ七万八五七一円、控訴人飯田義輝に対し、一五万七一四二円及び右各金員に対する控訴人正木啓之、同松浦優、同藤本誠、同島田良美については本件訴状送達の日の翌日以後である平成四年六月一七日から、控訴人飯田義輝については本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな同月一八日から履行の提供の日である平成五年七月二〇日まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余の請求は失当として棄却すべきであり、被控訴人酒井研二の請求は、控訴人正木啓之、同松浦優に対し、それぞれ一二万八五七一円、控訴人藤本誠、同島田良美に対し、それぞれ四万二八五七円、控訴人飯田義輝に対し、八万五七一四円及び右各金員に対する前同様控訴人正木啓之、同松浦優、同藤本誠、同島田良美については平成四年六月一七日から、控訴人飯田義輝については同月一八日から平成五年七月二〇日まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余の請求は失当として棄却すべきである。

よって、原判決中右と異なる部分は相当でないから、これを右とおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

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